Garuda Indonesia Colours Magazine March 2014 | Page 227
Archipelago: Seram | 群島:セラム島
群島:セラム島
文:エリック・ランドルフ、撮影:トム・パーカー
無人島の静寂と息を呑むような水中の景色を持つ、人里離れ観光地化されていない楽
園、
セラム島のような場所は世界でも数少ない。マルク諸島にある貴重で宝石のような
島をエリック・ランドルフが 取材する。
巨大な観光産業と世界的に交通が発達した現代に
しかし地元民にとって、
セラム島は昔からずっと
「ヌ
くなる一方だ。
確かに山に登ったり、
ジャングルに姿
大部分はこの島を先祖伝来の故郷であると考えてい
おいて、
完全に隔離された楽園を見つけることは難し
を消したりすることで喧騒から逃れることはできる。
だがデッキチェアでのんびりしながら、
ときどき海に
潜ったりできるような休日を好む我々のような人間
にとっては、
観光客や急速な開発によって荒らされて
いないスポットを見つけるのは簡単ではない。
だがセラム島は違う。
この島には驚くべき美しさと、
人里離れた感覚が共存している。
その秘密を世界に
明かすことには罪悪感すら覚えるほどだが、地元の
人々はこの島が持つ宝物のような知識を世界と分か
ち合うことを望んでくれている。
マルク諸島は、
かつてヨーロッパの植民地化が始ま
った場所だ。
イギリスやオランダからの探検家達がこ
の地域の木々から採れる、貴重で価値の高いさまざ
まな香辛料の支配権を巡って競い合っていた。16
サ・イナ
(母なる島)」であり、
マルク諸島の人々の
る。
この
「母なる島」
というイメージを支えているの
は、風変わりな地形だ―標高3000メートル級の山
々が堂々とそびえ立ち、
周辺の島々を制するような力
強い雰囲気を漂わせている。
セラム島は複数の小さ
な構造プレートの中心に位置し、
その中のマイクロプ
レートが8百万年かけて80度曲がったことで、
この
ように立派な熱帯雨林に覆われた山々ができたのだ
った。
開発の波がセラム島に届いたのは遅かった。島に最
初の道路が作られたのは、2007年になってから
だ。島を横断するには、
それまではボートに乗って周
って行くしかなかった―島の中央部を通るとなる
と、本格的なジャングルでのサバイバル術とよく切れ
るマチェーテが必要だったのだ。
世紀、17世紀にはオランダ人が地元の首長やヨ
ゴミひとつ落ちていない道を車に乗って行くと、左
セラム島に作った。
しかし当時はセラム島よりも、近
られない。途中で目にした車は1、2台だけだ。緑豊
ーロッパ諸国の競争相手と戦いながら、港や教会を
隣のバンダ諸島の方がより注目を集めていた。
バン
ダ諸島には伝染病に効くとされたナツメグが育ち、
北部の火山島 ではクローブも採れたからだ。
右どちらの景色にも近年の開発の影響はほとんど見
かな景色を眺めるため車から降りたときには、
すぐ
に野生のジャングルの奥深くへ入り込んだ感覚に襲
われた。
コバルトブルーの巨大なチョウが辺りを飛
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