Garuda Indonesia Colours Magazine February 2015 | Page 204

202 Alor | アロール島 ットは需要が高い。 その理由は希少性のためだ けでなく、 デザインが美しくシンプルであるから で、派手に飾らず内省的な印象が審美眼のある 収集家の興味をそそるのだ。 ドイツの人類学者 エルンスト・ヴァッターは、 1928年から1929 年にかけてアロールを訪れた後、 この地域独特 のイカットについてこう述べている。 「シンプルな 装飾であるが、 ここではそのシンプルさが美学的 な強みになっている。長い目で見れば、 より長続 きする芸術的効果があると言える。」 森を通るらせん状の道といった難所ばかりだか らだ。私達は無事に、西アロールのフラ村に到着 した。 ここは伝統的なイカットを織る、腕利きの 人々が住んでいることで国中に知られている地 域だ。 ここでは今でも300を超える天然素材か らとられた、染色技術が使われている―イエロ ールート (黄色の根を持つ植物)、 イカやタコの 墨、蜂蜜のカス、 アーモンドツリーの樹皮、 グアバ の種子、 ビンロウの実、 ニーラの葉、 マンゴツリー の樹皮などを使って、 ウールやコットン、 シルクの 糸を落ち着いた自然の色味で染めてゆく。 そして 自然からインスピレーションを得た、複雑な模様 に織り上げられた布は地元の儀式で使われてい る。 触覚:モコ モコと呼ばれる細かい彫刻が施された儀式用の 鼓は、 一見の価値がある。 しかしセリブ・モコ博 物館にある、 何百年もの歴史がある展示品には 手を触れないように。 その代わり、 美しく彫られ た装飾を触って味わう方法がある。 ほとんどの家 庭に一つはあるものなので、 地元の人々と仲良く なって触らせてもらうとよい。 確かに縞模様のような水平の帯が並んだシンプ ルな模様に、小さな幾何学的モチーフや水生動 物をデザインした装飾が付いているのを見ると、 私のような素人でも目にした瞬間に心惹かれる ものがある。素人とは言え、一人のインドネシア 人として、 自分の国にある文化の多様性が多種 多様な織物に反映されているのを見るのは嬉し いことだ。 ヴァッターはアロールについての著書 で、様々な民族の人々が住むこの島は何百年も の間ほとんど変わらずにいると述べている。彼が ここに来てからすでに85年以上経つが、温かく 歓迎的で和やかな部族民に接していると私も同 じように感じた。 次に訪れたのは、 アロール島北部にあるタクパラ 村のアブイ族だ。笑顔で挨拶をする村人達と共 に、部族長のパパ・ダリウスが出迎えてくれた。 「 タクパラ村へようこそ」 と、彼はモコを手にして言 った。彼がモコを4回叩くと、部族民がレゴレゴ ずらっと並べられたイカットに魅了された私は、 と呼ばれる伝統舞踊を踊り始めた。 私達は彼らが 地元の人々からイカットがいかに希少であるか 「メサン」 と呼ぶ、 あらゆる儀式が行われる町の を聞いて驚いた。 イカットは伝統と儀式におい 広場のようなところに立っていた。 メサンの中央 て、重要なものだ。模様やモチーフが家族ごとに には、石が高く積み上げられた 「メスバ」 という塔 代々受け継がれてきているため種類が非常に多 がある。 そしてこの村の家々はすべてメサンとメ く、質が高く歴史の古いものには国際市場で高 スバの方を向いて円を作るようにして建てられて 値が付けられている。 中でも、 アロール式のイカ おり、人々のつながりと連帯感を強調していた。 視覚:東南アジア最古 のコーラン アロールには、 800年前から伝わるコーランが ある。 樹皮に天然の染料を使ったインクで書いて あり、 東南アジアで発見された中で最も古いもの だと言われている。 この貴重なコーランは201 1年4月、 テルナテ島のレグ・ガム祭りの際に一 般公開されたこともある。